2012年12月19日

マンガ『ストロボ・エッジ』

『ストロボ・エッジ』
咲坂伊緒
マーガレットコミックス
全十巻




 朝日新聞および朝日放送でやっている「NMB48のティーンズ白書」で取り上げられ,読んでみようと思ったが,書店では品薄になっていた.連載が終わったマンガが2冊以上書店に置かれているってことはあまりない.新聞とテレビの影響力の大きさを感じる.

 高校生の恋愛の攻防を描く少女マンガの王道である.同じジャンルでは,手元には椎名軽穂の『CRAZY  FOR YOU』,『君に届け』がある.高校生の恋愛なんて,中高生の等身大の妄想を膨らませ続けたらできてしまうような話だ.考えうる登場人物像や物語構成はすでに出尽くしているのではないかと思ってしまうが,新しいものが絶えず現れ,一つ一つ異なっているから面白い.
 携帯電話普及以前のものは読んだことがないが,携帯の普及の前後で恋愛の形態が大きく変わっていると予想する.携帯電話は,少女マンガでは最重要アイテムである.この道具を通して話が展開していく.このマンガでも,仁菜子と蓮のつながりのきっかけは携帯電話のストラップだ.

 1巻だけ読むと,蓮の何がかっこいいのか全く分からなかった.設定でモテるお王子様というだけで,蓮のかっこよさに何の説得力もなかった.『君に届け』の風早くんとは大違いだ.表面だけの蓮はほとんどロボットである.
 しかし,2巻以降徐々に明らかになっていく蓮の人間性を知れば,仁菜子はよく分かっていると思わざるを得ない.それに比べて,蓮の表面だけ見て,騒いでいる女達は馬鹿なんじゃねえの.外から見た蓮として描かれている部分で,何か魅力的なところがあるのだろうか.
 相手の中身を見て,好きになる仁菜子は大変に素晴らしい.仁菜子は魅力的だ.豆と呼ばれるほど,小さくて丸くて,実に可愛らしい.要するに,モテ男から言い寄られながら,別のモテ男をその彼女から奪い取るという話だ.仁菜子がモテてモテて仕方がないという話なんだ.

 さて,こういうマンガに出てくる高校って実在するのだろうか.恋愛しか事件がないけど,それなりに勉強はしている.バイトはするけど,お金に困っているわけでもない.文化祭も体育祭も修学旅行も遠足もちゃんとあって盛り上がる.まるで桃源郷ではないか.等身大の妄想なのに,実は舞台はファンタジーの世界.すべての日本人が共感を覚えるけど,実際は日本のどこにも存在しない世界.そういうのが成立するという事実が実に面白い.
 吉田大八監督の映画『桐島部活やめるってよ』が今年公開されて,この高校生のファンタジーが成立する前提が崩れてしまった.桐島以降,少女マンガのこのジャンルも変わっていくのだろうか.

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